通訳・通訳ガイドの実録

徳島における通訳、通訳ガイド実録! 


今回ご紹介するのは、日本政府が提唱する「Visit Japan構想」の一環でオーストラリアから来日した旅行会社およびメディア関係者9人の視察に同行し通訳案内をするお仕事です。

滞在期間は6日。一行を関西国際空港でお迎えし、徳島、特に三好市の観光資源を視察する、徳島県にとってはオーストラリアの方々に徳島を知っていただく絶好の機会。


三好市 モンベル大歩危店にて

今回の通訳案内業務はJTBさんからの依頼で、JTBの添乗員の方と一緒に案内をしていくものでした。毎日のスケジュールはあらかじめ決定されており、スケジュール管理は添乗員の方がしていただけるので、その意味では負担は楽になりますが、お互いの考えを調整するということが求められました。詳しくは後ほどお話いたします。

1日目  関西国際空港にて  20:40

関空は国際線の出口が二ヶ所あり左右二手に分かれてサインを持ちお出迎え。
名前、人数の確認をしつつ、円への換金、テレフォンカード購入、お手洗いなどの誘導を行う。

全員そろったところでバスへ。

今晩はこのまま神戸のホテルで一泊。ホテルまでの道中、バスの運転手さん、添乗員さん、そして自己紹介を行う。

オーストラリア、シドニーとは時差が1時間しかなく、バスに乗り込んだのが、夜9時半を回っており、皆さんお疲れの様子。

大阪、神戸の特色について対比的に説明をする。USJがライトアップされており、
大阪の繁華街の明かりとともに、説明。

ホテルに到着前に部屋割りをバス内で説明し、ホテル到着後ロビーで鍵を渡し、今日はこれで終わり、、、と思いきや、早速思わぬ出来事が!

一人の方がスーツケースの鍵をなくしてしまい、開けられない状態に!

このようなトラブルのときこそ、通訳ガイドの出番です。早速ホテルの方に事情を説明し、解決策を模索。鍵屋さんに電話をかけると、その料金の額に愕然となり、結局鍵を壊すことに。フロントの方がいろいろ道具を持ってきてくれたのですが、なかなか錠を切断できません。

結局、ガソリンスタンドに行けばいいかも、の言葉にフロントの方が思い出したようで、特大の手動切断機を探してきていただき、一件落着。

鍵は切断することになりましたが、この一件でこちらの対応に少し信頼感を持っていただいたようでした。通訳ガイドは通訳とガイドをしてればよいということでは決してない、とあらためて思ったものでした。

添乗員さんと明日の朝の確認をして部屋へ。明日はいよいよ徳島へ。長い一日が待っています。

二日目 神戸を出発。明石海峡大橋を渡ったところで、予定にはなかったレストエリアに少し立ち寄ることに。レストエリアに立ち寄った理由は、全員集合の写真撮影の後、明石海峡大橋と神戸の町並みを一望できる景色を見ていただくことにあったのですが、意外なところに一行の興味が集まりました。

それはなんと、観覧車の下に設置してあった、幼児用の有料乗り物遊具でした。みんな興味津々でその遊具に乗って写真を撮っていました。彼等にとっては明石海峡大橋よりもこちらのほうが“日本”と感じるそうです。

その後、遊具についての質問をあれこれ受け、私たち日本で生まれ育った者とは興味の視点が違うものだなあ、とあらためて思いました。

次は鳴門の渦の道です! 

 

10:30 渦の道到着。  

観光地での注意事項。トイレ位置の事前確認、集合時間および場所をバスを降りる前に必ず再確認すること。今回の一行もそれぞれ思い思いに見て回るのがいいということで、しかもこの日のようなタイトなスケジュールでは、なおさら集合時間および場所の周知徹底は重要。一通り観光スポットを説明した後、つかず離れずで質問を受ける形になりました。


12:30 100円ショップ   


昼食後、一行の強い要望で、予定になかった100円ショップへ立ち寄ることに。日本の100円ショップは品質、品揃えなど、海外の方にとってはとても興味ある場所だそうです。皆さんいろいろ買ってました。


次の阿波踊り会館では踊りの公演時間があるので、それに間に合わせなければなりません。添乗員さんが、運転手さんらと所要時間らの打ち合わせ、道路交通量の確認をし、もっと商品を見たい一行を促すようにバスへ。

13:30  阿波踊り会館


日本最高のBon festival、 阿波踊り!そのすばらしさは夏の本番を体験するのが一番ですが、阿波踊り会館でもその興奮の一部と歴史を垣間見ることができます。定時に行われる演舞はすばらしいものですが、英語での解説がないため、海外からの観光客にとっては何をしているのかわからないまま進行していきます。一枚簡単なプリントが一階の受付にあって、頼めばいただけますが、この部分は改善を期待したいところです。

 

脇町うだつの町並み   


ここではなんと地元のボランティアガイドの方がスピーカーを持って地元の方ならではの情報を盛り込んで先導してくれました。うだつの説明はバスの中で到着前にしたのですが、私自身は現地では後方からちょっとした質問に答えていく形で進みました。

話は変わりますが、は徳島を語るときに絶対はずすことのできないものだなと、ここうだつの町並みでも再認識しました。あなたなら、藍と徳島の関係、そして藍染をどのように諸外国から来られた方々に語りますか?

 


18:00  酒造蔵 みよしぎく   


予定時間を30分オーバーし到着。皆さん日本酒の試飲ができるということでかなり興味を持っている様子。ここでも地元のボランティア通訳の方が待機されていましたので、酒造作りの説明はお願いし、個々の質問に必要に応じて答えていきました。私も試飲させていただきましたが、本当に美味でした。見てください、皆さんの顔!

 

17:00   ホテル到着  歓迎レセプション   


まだまだ通訳ガイドとしての役割は終わりません。ここからは主に通訳者としての仕事になります。

まずは、三好市市長のオープニングスピーチ。事前の打ち合わせは全くなく、市長自身も「何を話すか決めていない、すべてはマイクの前に立って思ったことを話すのでよろしく。」とのこと。「逐次通訳をしますので、適当に間をとってお話ください。」とだけお願いして、さあ本番。

進行役の司会者の日本語もすべて英語に逐次通訳していきます。こちらもスケジュール表はいただいてますが、何をどのように話されるかはわからない状態でのスタートでした。

夕食をいただいたのは歓迎レセプションが終わって、全員が各部屋に戻った後でした。長い一日でした。


二日目総評   


ご覧いただいたように二日目は非常に長い一日でした。実はこのあと温泉で、今回通訳ガイドをさせていただいた方たちとばったり会い、それからお風呂を出たところにある休憩室で、オーストラリア、ニュージーランド、そして日本の現状について2時間以上いろいろな話をしました。気がつくと夜の12時を過ぎており、あわてて部屋に戻ったしだいです。恥ずかしいことにオーストラリア、ニュージーーランドに関しては知識や情報が乏しく、とても興味深い話題ばかりでした。また、深く話していくと普段は尋ねられないないような本音も聞けてとてもうれしい気持ちになったのを覚えています。


ところで、通訳ガイドには事前の情報収が非常に重要です。特に観光地で説明する事柄は大体決まっているので、何をどの順番で伝えていくのかはしっかりと準備しておく必要があります。しかし事前の打ち合わせにないことも当然ながら数多くあり、その場で臨機応変に対応する柔軟な思考が要求されます。そこにはいわゆる「おもてなしの心」がないとガイドは独りよがりのものになってしまうでしょう。


そして、なんといってもプロの通訳案内士は英語スピーキング能力の向上が不可欠です。通訳案内士の試験に合格した時点ではSSTレベル5程度(OPI中級下)のスピーキング力の方も多くいらっしゃるでしょう。しかし、徳島で通訳ガイドをする場合、京都や東京などとは違って日帰りの観光地での説明がほとんどというガイド初心者の仕事は少なく、今回のように要人、地元住民等の逐次通訳を伴う数日から1週間程度の仕事が現状ではほとんどだといえるでしょう。するとプロとして通訳ガイドをする機会が少ないにもかかわらず、依頼のあるお仕事はある程度の経験とかなりの英語スピーキング力がないとできないようなものばかりという状況にあります。スピーキング能力はSSTレベル8(OPI中級上)が最低限必要だ、というのが実感です。


また、日本語から英語への逐次通訳の場合、日本語を理解するという点では日本語が母国語なのでそれほど問題はないのですが、英語スピーキング能力は相当な力が必要になります。専門性の高い分野の通訳はその分野の日本語および英語表現を吸収すれば、英語の日常会話力はOPI上級下もしくはTOEIC LPI レベル2+でまずまず大丈夫ですが、スモールトーク、もしくは感情豊かな日常会話などはその感情のニュアンスまで英語で伝えるにはOPI上級上もしくはTOEIC LPI レベル3が最低限必要でしょう。私自身、もっと英語力を底上げしないといけないな、とあらためて思いました。